韓国での国内治療

 韓国政府は渡日治療の打ち切りの理由として、国内治療の充実を図ることを表明していた。 一九八九年、韓国で皆国民健康保険制度(被保険者負担は二〜三割)がスタートした。日本政府からも「在韓被爆者医療協力」の名目で四二○○万円の拠出が決定された。この年から在韓被爆者が韓国内での無料治療、年一回の指定病院での無料健康診断が実施されることになった。

 この制度では在韓被爆者が「無料治療」を受けるためには、まず協会が行う被爆者認定審査をパスし、さらに大韓赤十字社、協会、韓国保険社会部の三者の代表者からなる「福祉増進対策委員会」の承認を経たうえで、協会に加入登録を行ない、大韓赤十字社発行の「被爆者診療証」の給付を受けなければならない。被爆者は「診療証」と「医療保険証」(生活保護者の場合は「医療保護証」)を持参して病院に行けば医療費の自己負担分が国の支給となるというしくみだ。が、実際の窓口となるとちょっと事情が違う。

 「対策委員会」によって「被爆者指定病院」に定められた主要都市の五総合病院と大韓赤十字社の七機関ではたしかに医療費の本人負担分は病院から直接、協会に請求されるため、窓口での医療費の支払いの必要はない(但し、それも前もって協会各支部で作成された「診療依頼書」を病院に提出しなければならない)。しかし、一般病院や公共医療機関で診療を受ける場合は、被爆者が一旦、医療費を支払った後、領収書を添付の上、協会に診療費を請求し、はじめて払い戻されるのである。

 高齢化し、生活費にも苦しむ在韓被爆者にとって、複雑な手続きや医療費の立て替えは現実的にはなかなかできない。この制度も指定病院や協会の各支部の近辺に住む人以外には十分にできないものだった。また、原爆後障害の治療経験に乏しい韓国の病院では、被爆者特有の症状も一般の成人病として扱われることが多かった。結局、高い売薬で痛みなどの対症療法を続ける被爆者はなくならなかった。

  (在韓被爆者が語る被爆50年−求められる戦後補償−〈改訂版〉より)


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