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平成14年(行タ)第3号 裁判官忌避申立事件
裁判官忌避申立理由書

平成14年(行タ)第3号 裁判官忌避申立事件
裁判官忌避申立理由書


2002(平成14)年2月7日

大阪高等裁判所第10民事部 御中


申立人 別紙当事者目録のとおり


申立人  永   嶋   靖   久   
                      
同 足   立   修   一   
   
同   小   田   幸   児   

同   金 井 塚   康   弘   
  
同   新   井   邦   弘   

同   安       由   美   

同   太   田   健   義   


 申立人らは、2002(平成14)年2月5日に開かれた平成13年(行コ)第58号事件の口頭弁論期日において、大阪高等裁判所第9民事部裁判官根本眞、同鎌田義勝及び同松田亨に対して忌避を申し立てたが、その理由は次のとおりである。

第1 裁判所は争点を明らかにしなかった
 1 申立人ら(被控訴人代理人ら)は、2002(平成14)年1月28日付争点整理に関する求釈明書において、本案訴訟の争点について、相手方及び裁判所に対して争点を明示するように求めた(疎甲1・同書面)。
   すなわち、相手方は、第1審判決が措定した争点である「被爆者援護法1条の『被爆者』が日本に居住も現在もしなくなることにより,当然に『被爆者』たる地位を喪失するか否か(日本に居住又は現在していることは『被爆者』たる地位の効力存続要件であるか否か。)」のうち、括弧内の争点については明確に認めていなかった。
   そのため、申立人らは上記書面において、相手方及び裁判所に対して、本案訴訟の争点についてどのように考えているのかについて、明らかにするよう釈明を求めた。

 2 この点、相手方は、平成14年2月5日付準備書面(3)第7において、上記の括弧内の争点についても、争点であると考えていると釈明した。
   そのため、申立人らは、相手方との間においては、主張は異なっているものの、一応、争点は一致していると判断したが、裁判所が本案訴訟の争点をどのように把握しているかは全く明らかでなかった。

 3 そこで、2002(平成14)年2月5日の口頭弁論期日において、申立人らは、上記求釈明書に基づいて、当事者双方のみで争点が一致しているだけでは不十分で、裁判所も含めて争点が合致していることが重要だとして、裁判所に対して本案訴訟の争点をどのように考えているか明らかにするよう強く釈明を求めた。
   ところが、裁判所は、争点の把握が当事者双方で合致していることは認識していると述べたものの、裁判所自身が争点をどのように把握しているかは全く明らかにしなかった。
   しかし、これでは到底裁判所として充分な職責を果たしているとはいえない。

 4 すなわち、「新民事訴訟法の構想した民事訴訟手続は、一言でいえば、『争点中心審理』手続きであ」り、「争点中心審理の中核に位置づけられる争点整理手続き(早期の争点整理・争点の絞り込み)は、最も重要であるといえる」(加藤新太郎「争点整理手続きの整備ー裁判官の立場からみた争点整理」新民事訴訟の理論と実務〈上〉208及び209頁)。
   そして、「当事者として、主張すべき事項を主張し、争うべき事項がクリヤーとなり、主張を裏付けるのに相応しい証拠を俎上に乗せて吟味する機会を与えられたという手続き、換言すれば、争うべき争点を正々堂々と争ったという納得の得られるフェアで透明度の高いプロセスは、『分かりやすさ』の基本である。そのためのツールである争点整理手続きは、そうした『分かりやすさ』と審理の充実の鍵となる」(同209頁)。
   その結果、「充実した争点整理がなされると、判決書との関連では、両当事者が努力を傾注した争点と異なった事実にもとづいて勝敗が決するということがなくなる。」が、「そのためには、争点が裁判官の頭の中で整理されているだけでは不十分で、当事者と共通の認識が形成されていなければならない」(飯村佳夫「争点整理」論点新民事訴訟法155頁)。
   なぜなら、裁判所は、判決書に争点を明示した上、争点に対する判断をするのであって、争点が確認されないまま判決がなされると、争点からずれた判決をなされる可能性を払拭できず、それでは、争点整理を行った意味が全くなくなるばかりでなく、争点に対する判断がなされるとの当事者の期待も裏切られることにからである。だからこそ、判決書においてもまず争点が明示され、争点に対する判断が判決書の中心となるのである。
   したがって、当事者双方が争点を確認してるだけでは足りず、争点からずれた判決を防止し、当事者が納得した判決をするためにも、裁判所自らが争点を明示することこそが必要であり、そのことは裁判所の重要な職責にほかならない。
   だからこそ、新民事訴訟法においては、裁判所が中心となって争点を確定するよう様々な手続きをわざわざ創設したのである。
   もちろん、この理は控訴審においても妥当する。

 5 このような争点中心主義の新民事訴訟法下においては、裁判所が争点を明示しないことは、単なる訴訟手続上の問題ではなく、裁判制度の根幹に関わる問題である。
   すなわち、上述の争点整理の重要性からすれば、裁判所自らが積極的に争点整理に努め、争点を明示することこそが新法における眼目であり、それは、当事者の裁判所に対する信頼と公正妥当な判決書に対する基礎でもある。なぜなら、裁判所自らが確認した争点に対する判断がなされることを当事者は期待するのであって、争点と異なる判断がなされるのであれば、それまでの当事者の努力は無に帰し、そのような裁判所に対して当事者が信頼を置くはずがない。また、裁判所自らが確認した争点が判決書に示され、それに対する判断がなされるからこそ、公正妥当で当事者の納得が得られる判決となるのである。
   したがって、裁判所自らが争点を明示しないことは、まさに「裁判の公正を妨げるべき事情があるとき」(民事訴訟法第24条1項)といえるのであって、単なる訴訟指揮の問題などでなく、裁判制度そのものの信頼を揺るがせる問題である。


第2 口頭弁論は終結していない

 1 上記のように、申立人らが裁判所に対して争点を明示するよう釈明を求めたところ、裁判所は、本案訴訟の争点が何であるかを明らかにしなかった。
   そこでさらに、申立人らが裁判所に対して、争点を明らかにしない理由を問い質そうとして、立ち上がって発言しかけたところ、裁判所は、「ちょっと待ってください。」と強く言って申立人らの発言を遮り、それ以上申立人らの発言を許そうとしなかった。
   そのため、申立人らは、裁判所が争点を明示するか、または明示しない理由を述べるものと思って、それ以上発言することを止め、席に座って裁判所の発言を待った。
   ところが、裁判所は、申立人らの発言を強引に遮ってまでして、争点に関する何らかの態度を明らかにするような素振りを見せながら、突如として弁論を終結しようとしたのである。

 2 しかしながら、以上のような経緯からすれば、弁論は終結していない。
   なぜなら、本来ならば、裁判所は、申立人らの釈明に答えるか、もしくは答えない旨を明らかにすべきだからである。申立人らの求釈明に答えないことを明らかにしたのなら格別、上記のような裁判所の態度は、申立人らの正当な訴訟追行を不当に妨げるものでしかない。
   すなわち、裁判所が申立人らの求釈明に答える考えがなかったのであれば、申立人らの発言を待って、その旨を返答すれば良かったのである。そして、申立人らとすれば、そのような裁判所の態度を見た上で、証人調べについての追加意見を述べるなり、忌避申立を行えたはずであった。
   ところが、裁判所は、申立人らの発言をわざわざ制止して、あたかも求釈明に対する何らかの返答をする素振りを見せながら、求釈明に対して新たな返答を何らすることなく、いきなり弁論を終結しようとしたのである。

 3 このような事態が生じたのは、上記1で述べたように、申立人が裁判所と争点に関するやり取りをしていたにもかかわらず、突如として弁論を終結する旨を宣言しようとしたからである。
   すなわち、申立人らとしては、裁判所が求釈明に対して何らかの結論を明らかにした時点で、少なくとも相手方と確認し得た争点と絡めて、今後の事実調べの必要性を説明する予定だったのである。
   ところが、裁判所が申立人らの正当な訴訟追行を強引に遮り、突如として弁論終結を宣言しようとしたため、その機会を奪われてしまったのである。

 4 以上のように、裁判所は形式的には弁論終結を宣言しているように見えるものの、それは、申立人らの発言を遮ってまでした不当なものでありる。
   したがって、未だ口頭弁論は終結しておらず、本件忌避申立も弁論終結宣言後になされたものではなく、弁論終結前の裁判所に対してなされたものである。
   裁判所は、争点を明示しなかったのみならず、申立人らの正当な訴訟追行を強引に遮って弁論を終結しようとしたという点において、二重の意味で公正さに強い疑いを抱かせるものである。


第3 裁判所は、第1回期日前から不当な予断偏見を抱き、本案訴訟を早期に結審させようとしていた

 1 昨年9月7日11時、本案訴訟についての進行協議が行われた。
   その際、裁判官松田亨は、強引に早期結審しようとしする態度をあからさまにした。

2 (中略)

 3 上記から明らかなように、裁判所は、本案訴訟が始まる前から早期結審を予定していた。
   もちろん、申立人らとしても、争点がかみ合い、必要な事実調べが行われるならば、早期結審には何の異存もなかった。だからこそ、争点のかみ合わせのために、争点整理に関する求釈明書を提出した上、相手方と裁判所に対して争点の確認を求めた上、人証申請についても補充書を提出して、争点とそれに対応する事実調べを求めたのである。
   ところが、裁判所は、当初から不当な予断偏見を抱き、早期結審のみに拘泥していたことは、進行協議期日での申立人らとのやり取りから明らかである。
   裁判所は、このように、争点を確定した充実した審理を目指すことなく、早期結審のみに心を奪われていたため、不当に申立人らの発言を遮ってまで弁論終結を宣言しようとしたのである。

 4 以上のように、進行協議段階から早期結審のみしか考えず、争点すら明らかにしないまま、裁判所が一方的にしようとした弁論終結宣言が無効であることは明らかであり、かかる意味でも、本申立は、弁論終結前の裁判所に対してなされたものである。


第4 仮に弁論が終結していたと判断されるとしても、本申立が確定するまで、当該裁判所は判決書に関与すべきでない
 上述のように、申立人らは、本案訴訟の弁論が終結されたとは考えていない。したがって、本申立も訴訟手続中になされたものであるから、本申立が確定するまで裁判所は手続きに関与できず、申立確定後、改めて弁論期日が指定されるべきである。
   しかし、仮に、裁判所による違法・不当な弁論終結宣言後に本申立がなされたと判断されるとしても、本申立が確定するまでは、当該裁判所は判決書に関与すべきではない。
   なぜなら、そもそも申立人らは、弁論終結前に本申立をしたことを前提としているのであるから、本申立が確定するまでは、弁論が終結したか否かも明らかとはならないからである。そして、争点も明示せず、一方的に弁論を終結しようとする裁判所に、公正さを害するおそれがあると判断したからこそ、申立人らは忌避申立をし、手続きからの排除を求めたのである。したがって、そのような裁判所が本申立確定前に判決書に関与するならば、そもそも本申立自体が意味をなさないのであって、確定されるまで、裁判所は判決に関与すべきでないのは当然である。
   しかも、上記第3のように、裁判所は進行協議段階から不当な予断偏見に基づき、早期結審に拘泥した上、不当に弁論終結を宣言しようしたのであるから、そのような裁判所が、形式的に訴訟手続が終了しているとして判決に関与することは、忌避申立制度自体を没却するものにほかならない。
   したがって、本申立が確定するまで、裁判所は判決書にも一切関与すべきではない。
以上


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