米国原爆被爆者協会
嘆願書

2001年6月26日

内閣総理大臣 小泉純一郎様

                        米国原爆被爆者協会

名誉会長倉本寛治

嘆願書


 日本では被爆者は、国の責任において、原爆(20世紀最悪の兵器)の被害が特殊であることにより、高齢化の進んでいる被爆者に対する保険・医療及び福祉にわたる総合的な援助対策が考えられ「被爆者援護法」が1995年より実施されましたことは、被爆者として大変喜ばしい限りです。これは日本国の暖かい人道主義・博愛精神の現れと心から敬意を表します。

 アメリカでは日本のような国民健康保険がないので、個人で健康保険に加入せざるをえません。しかし「原爆の被害者」だと判れば、他の重病人と同様に保険加入を拒否されます。もしも加入が出来ても掛け金が増額される他に、被爆した原因からの病気はカバーしない条件になります。これでは保険を掛けた意味がありません。病気がちの被爆者が健康保険に加入出来ないということは、不安な日々を送らざるをえない悲しい不幸なことです。

 それで仕方なく被爆者という事実を隠して健康保険にこっそりと加入している方もいます。

 日本に行き手続きをすれば、被爆者健康手帳の交付を受けられます。そして健康診断や病気の治療もうけられます。そしてその病気によっては「健康管理手当」等の支給も受けられます。本当に有難いことです。しかしアメリカに帰りますと、なぜか手帳が無効になり、手当までも一切なくなります。

 被爆者は皆九死に一生の受難にさらされ、今も未だ苦しんでいますことは日本の被爆者もアメりカ等海外に住む披爆者も全く同じです。ただ外国に住むだけの理由で除外し、無視してしまうのは人道的・博愛的ではなく非常に残念に思います。

 被爆50周年に制定された「援護法」の序文は大変立派なものです。「…国の責任において、原子爆弾の投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が・・・特殊の被害であることをかんがみ、高齢化の進行している被爆者に対する総合的な援護対策を講じ、・・・、この法律を制定する」とあり法律の内容も納得のいくものであり、戦後苦しみ続けている被爆者に対しての援護であり、日本国の博愛精神、人道主義の現れと敬意を表します。

 この素晴らしい法律には人種、国籍、住居等の差別がなく、被爆者手帳を持てばカバーされるようになっています。しかしどうしてか1974年の公衆衛生局長通達により、海外の被爆者は除外されています。普通、通達とは法律の施行に役立つ局内での知らせと思います。しかしこの「通達」は立派な法律「援護法」の施行をうやむやに曲げています。なぜなのでしょうか?なにか外国に住む被爆者への偏見差別を感じさせます。

 生涯いやすことのできない傷跡と後遺症を持ち、不安の中での生活を続けて被爆者は日本に居ようとアメリカ、ブラジル、韓国に居ようと変わりません。日本政府が色々と審査し、被爆者と認定した披爆者手帳の保持者です。なぜ海外に住んではいけないのでしょうか。大変不公平です。

厚生省の担当官の説明は「・・・貴方方は税金も支払ってないから!」「・・・日本から勝手に去りました!」「・・・これは国内法だから!」等の言い訳を受けますが、おかしいです。序文には「・・・国の責任において・・・高齢化の進行している被爆者に対して・・・総合的な援護対策を講じる…」と銘記されており、全然海外在住の被爆者を除外するとは書いてありません。被爆者は何処に住んでも変わりません。この解釈では海外に出ると被爆者でなくなるのでしょうか?博愛精神、人道主義、人間皆平等と唱える日本国の美しい精神はこの「通達」によって破壊されています。

 思いますに外国に住む被爆者は殆どが外国人です。しかし日本国籍の被爆者がアメリカに約400人、南米に約200人、そして韓国や北朝鮮にも居ます。この数少ない被爆者は日本人として日本国憲法によって平等に保護され、何処に住んでも日本人として尊重され、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有すると信じます。日本国憲法は海外に居る者には適用しないのですか?日本はそんなに非国際的な非人道的国なのでしょうか?

 南米の被爆者の多くは敗戦後、被爆して苦しい貧乏な日本に住むより、チャンスのある新天地を求めて移住しましょうと、国や県の移住局の盛んな宣伝奨励に従って行かれた方のようです。確かにこの方々は人数が少ない、そして力も金もない人達です。ほっとけばその中に亡くなり援助の必要もなくなる・・・と無視するのでしょうか?老齢化したこの被爆者は遠い祖国日本からの愛の贈物を心から夢みています。もしも助けて下さるのでしたらこの方々が元気な時にして下さい。お願い致します。

 現在私どもは日本の被爆者のグループの強力な支援でブラジル、韓国そしてアメリカの被爆者が合同になり、海外の被爆者にも[援護法」の一部でも支援して欲しいと運動をしています。しかし日本でよく知られていない私どもは人数は少なく、選挙も出来ず、資金もなく、政治家を動かす力もありません。

 アメリカは民主主義の国です。いつも人数と資金があるグループは大変強いです。その反面数の少ない資金のないグループは力がなく哀れです。しかしこの「弱者」に対して人道主義の政治家もおり、「弱者」を助けています。アメリカの被爆者救済運動もこの人道主義の政治家の支援で議会に法案を提出して、公聴会まで開催してくれましたが、破れました。そして大統領にも嘆願書を送りましたが、「正当なる戦争」の理由で断られました。

 我々アメリカに住む被爆者はこうしてアメリカからも援助を受ける事が出来ません。しかしある高官や有力な政治泉は「・・・日本では被爆者支援を実行している。千人くらいの被爆者なら日本に行って嘆願しなさい。きっと配慮してくれます…」との進言もありました。しかし頼りにする日本は海外にいるとの理由だけで駄目だと蹴られています。

 この問題を大阪地方裁判所で郭貴勲さんが提訴し、全面勝訴の判決を受けました。本当に嬉しい限りです。しかし日本政府は控訴しました。悲しさ一杯です。このままだと解決まで数年はかかると云われます。病気がちの被爆者の平均年齢は70才以上になりました。もう待てません。どうか、見捨てられている数少ない海外の被爆者が生きて居る中に暖かいご判断とご決意で助けて下さい。心からお願いします。

 今後もご健康で益々のご活躍を遠きアメリカよりお祈り致します。
 勝手ながら粗末な拙書「在米50年 私とアメリカの被爆者」を同封致します。ご一読して頂ければ幸いです。


yuu@hiroshima-cdas.or.jp