在アメリカ被爆者裁判の意義

 

      代表世話人  田  村  和  之              (広島大学教授)


 日本の国外に5000人の被爆者(在外被爆者)がいると言われています。これらの在外被爆者は、日本国内に居住している被爆者と同じように援護を受けられることを切望しています。

 2002年12月に在韓被爆者・郭貴勲さんの大阪高裁勝訴の判決が確定し、日本政府の在外被爆者に対する施策は大きく前進しました。しかし、政府は、以前より被爆者健康手帳の交付や被爆者手当の支給の申請は、日本国内からでなければ行えないとしています。つまり、在外被爆者は日本に来なければ、手帳取得や手当て受給ができないというのです。

 しかし、日本に来られない在外被爆者は少なくありません。これらの被爆者は、今なお放置されたままです。比較的「元気」で日本に来ることができる被爆者は手当を受給でき、病気が重く日本に来られない被爆者は何の援護も受けられないという、矛盾した「差別」的な状況になっています。このような日本政府の態度は、何としても改めさせなければなりません。

 このたび、在アメリカの被爆者(手帳所持者)および死亡した被爆者(手帳所持者)の妻の二人が、居住地から、手当などの支給申請を広島市長に提出したところ、市長は、「申請者の居住地は広島市でない」ことなどを理由に、申請を却下しました。そこで、この二人は、国外からの申請を認めないのは被爆者援護法上違法であるとして、広島市長を被告とし、却下処分の取消しを求める行政訴訟(取消訴訟)を広島地裁に提起しました。

 この裁判の争点は、国外の居住地からの申請(申請権)は認められるか、の一点です。勝訴すれば、国外からの被爆者手当等の申請に道を開くことができると考えられます。